แชร์

『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています
『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています
ผู้แต่ง: 悠・A・ロッサ

第1話 このウェディングフォトの花婿、私の夫にそっくり

ผู้เขียน: 悠・A・ロッサ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-08-15 09:31:58

    午前、瀬川糀は写真館の前で足を止めた。

 結婚して八年。ようやく、夫の修司とウェディングフォトを撮る日だった。

 結婚当時は余裕がなかった。式も写真も後回しにした糀に、修司は言った。

『仕事が落ち着いたら、一番いいプランで撮ろう』

 その約束を、糀は八年も大事にしまっていた。

 数日前、糀が「そろそろ写真、撮りに行こう」と言ったとき、修司は珍しく機嫌がよかった。

『いいよ。ちゃんと予定を空ける』

 普段なら、仕事の返事みたいに短く終わる。結婚記念日に何を作ろうか話しても、返事だけして、ほとんど聞いていない。

 それなのに、その日だけは違った。

 今朝も修司は「必ず行く」と言った。糀はそれだけで、とても嬉しかった。直前に《仕事の用事が入った。先に行って》と届いても、疑おうとは思わなかった。

 先に着替えて待っていればいい。

 今日こそ、八年越しの約束を写真に残せる。

 糀はシンプルなドレスに袖を通した。

 「少し遅れるくらい、いつものこと」

 鏡の中の自分に、小さく言い聞かせる。

 薄く整えた髪は、少しだけ乾いて見えた。目鼻立ちは、近所でも美人だと評判だった母によく似ていると言われたけれど、今は台所に立つ時間の方が長く、肌の手入れも後回しだった。

 少し手をかければ変わるのかもしれない。でも、今の糀には、その少しの時間もなかった。

 本当は、今日くらい綺麗に見られたかった。

 約束を忘れたわけじゃない。時々、仕事で流れるだけ。話しかけても上の空の夜はあるけれど、八年も夫婦をしていれば、きっとこんなものだ。

「あの……もしかして、『糀ごよみ』を管理されている方ですか?」

 隣で待っていた若い女性が、遠慮がちに声をかけてきた。

 糀は反射的にスマートフォンを伏せた。開いていた投稿編集画面の端に、アカウント名が見えていたらしい。

「見えてしまって、ごめんなさい」

 女性は慌てて頭を下げ、少し笑った。

「この前の小松菜のごま酢浸し、作ってみたんです。簡単なのにおいしくて、栄養もあって。ああいうメニュー、素敵ですね」

「ありがとうございます。家にあるもので作れるものばかりですけど、そう言っていただけると嬉しいです」

 糀が驚いていると、女性は本気で残念そうに続けた。

「でも、上級編で載せていらした甘酒トマトドレッシングは、発酵の加減が難しそうで。あれ、売らないんですか?」

 その言葉に、胸の奥が少しだけ明るくなった。

「売ることまでは、考えたことがなくて」

 そう言いながらも、小さなラベルを貼ったドレッシングが、いつか知らない誰かの冷蔵庫に並ぶ。そんな光景を想像すると、自分の料理が家の外へ届く未来を、初めて信じられる気がした。礼を言い、膝の上のドレスをそっと撫でる。今は、八年越しの約束を写真に残すことだけを考えた。

 糀ごよみは、家で褒められない料理を、初めて誰かが待ってくれた場所だった。フォロワーは十万人を超え、広告収益や小さなPR依頼で月に数万円ほど入る。稼ぎというより、自分の料理を誰かに見てもらえている証拠だった。

 家では古臭いと言われる料理が、外では誰かに食べたいと言われている。その事実だけで、糀は今日の寂しさを我慢できた。

 けれど、修司は来なかった。

 仕事が長引いているだけならいい。事故にでも遭っていないかと心配する一方で、こんな大事な日を忘れられていたらどうしようという不安が消えなかった。

 スマートフォンはマナーモードにしていなかった。それでも糀は数分おきに画面を確認した。

 けれど、新しいメッセージは一向に届かなかった。

 三時間後、届いたのは短い連絡だった。

《取引先を迎えに行く。今日は無理。また今度でいいだろ》

 謝罪はなかった。

 糀はドレスの膝の上で、スマートフォンを伏せた。謝る言葉さえない短いメッセージを見ていると、自分だけがこの日を大切にしていたのだと思い知らされた。カメラマンが気遣うように、館内の写真を見ますかと声をかけてくれた。糀は口元を整え、「お願いします」と頷いた。

 壁には、これまでの客の写真が並んでいる。笑い合う夫婦。指輪を見せる二人。

 その中の一枚で、呼吸が止まった。

 若い男が、白いドレスの女を抱き寄せている。

 女の腰に回された手。額が触れそうな距離。写真用の演出ではない。夫婦だけが持つ、遠慮のない近さだった。

「……これ、いつ撮られたものですか」

「八年前の今日ですね」

 八年前の六月十五日。

 糀が修司と入籍した、その日付と同じだった。

 まさか。

 そう言おうとした。人違いだと思いたかった。

「……修司さん」

 糀の口から、名前が漏れた。

 カメラマンは写真を覗き込み、少し考えた。

「修司さん……? ああ、たしかそういうお名前でしたね。お知り合いですか?」

 糀は、返事ができなかった。

 写真の中で別の花嫁を抱いていた男は――自分の夫だった。

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป

บทล่าสุด

  • 『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています   第99話 勝てば、嘘ではなくなるのよ

     牧場に九条が先に着いたと知り、糀の眠気も消えた。 「九条って、玲奈さんですか」 「おそらく」  起き上がろうとして、まだ煌の腕の中にいることに気づく。目が合うと、昨夜、同じ布団で抱きしめてもらったことが一度に戻ってきた。  頬が熱くなった。けれど、恥ずかしがっている時間はない。  煌の腕が背中から離れた。急に寒くなったような気がした。  二人は急いで着替え、宿を出た。  峯岸牧場へ着いた時、空はようやく白み始めていた。濡れた土と草の匂いがする。  牛舎の前には、九条グランドホテルの車が二台止まっていた。  玲奈は淡いベージュのコートに、艶のある黒いブーツを履いていた。足元には泥がついている。それでも髪も化粧も乱れておらず、夜明け前の牧場には不釣り合いなほど美しかった。  けれど、近くで見ると、頬はいつもより白かった。眠っていないのかもしれない。  少し離れた場所には、榊原とホテルの社員が立っている。社員の一人は、書類の入った黒い鞄を抱えていた。 「遅かったわね」  玲奈の視線が、糀と煌の間を動いた。 「二人で、同じ宿から来たの?」  糀は昨夜の布団を思い出し、言葉に詰まった。 「料理を調べるための出張です」  煌が答えた。 「そう。ずいぶん仲のいい出張なのね」  玲奈は笑っていたが、声は硬かった。 作業着を着た年配の男性が、玲奈の前にある書類を閉じた。 「さっきも言ったが、この契約に判は押さん」 「九条は、今後一年分を通常の三倍で買い取ると言っているんです」 「肉なら、必要な分を正規の値で売る。だが、澄江さんがどの部位を選び、何日寝かせてから使ったのか。昔の出荷記録まで、九条に渡す気はない」  玲奈の指が、閉じられた書類の端を強く押さえた。爪の先が白くなっている。  玲奈が求めていたのは、肉だけではなかった。  祖母が選んだ部位も、肉を使うまでの時間も、九条の《完全再現》に利用するつもりなのだ。 「記録を奪うつもりはありません。九条が責任を持って世に広めるだけです」 「それを、奪うと言うんだ」  男性は取り合わなかった。  玲奈のスマートフォンが鳴った。画面を見た玲奈の眉が、わずかに動く。 「私です」  電話の相手に背を向けたが、静かな牧場では声が聞こえた。 「分かっています。私が取締役会を通し

  • 『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています   第98話 おやすみなさい、あっくん

    「はい」 煌が答えた。 たった一言なのに、糀の目に涙がにじんだ。 煌の指が、絡めていた手をゆっくり返した。親指が、糀の左手首に触れる。「この火傷も、覚えていたんですか」「忘れたことはありません」 あの日、糀は塩むすびと味噌汁を一緒に運ぼうとした。椀が傾き、左手首に熱い汁がかかった。 痛くて泣いた。祖母がすぐに水で冷やし、冷たい布を巻いてくれた。「今日はもう、奥で休んでいなさい」「でも、あの子はまだ何も食べてない」 糀は塩むすびを持って男の子のところへ戻った。半分に割り、自分が先に食べてから差し出した。 糀も、あの日を忘れたことはない。 けれど、それ以降、男の子は店へ来なくなった。「私が火傷をして、騒ぎになったから来なくなったんですか」「そうではありません」「でも――」 煌の人差し指が、糀の唇へそっと触れた。 煌は指を触れたまま、首を横に振った。「今は、勝負に集中しましょう」「最初から、私だと知っていたんですか」「はい。動画の声と、その傷で分かりました」 糀は左手首へ触れている親指を見つめた。「どうして、今まで言わなかったんですか」 煌はすぐには答えなかった。「あなたを傷つけるのが、怖かった」「私を、ですか?」「……はい」「どうして、それで私が傷つくんですか」 煌は答えなかった。左手首に置かれた親指だけが、わずかに動いた。「あっくんは、私の初恋でした」 絡んだ指が止まった。 煌は糀の左手を持ち上げた。 火傷跡へ、柔らかいものが触れる。 唇だと分かった瞬間、糀は息を止めた。傷はもう痛くないのに、触れられたところから熱くなった。 幼いあっくんには、こんなふうに触れられたことはない。 手首に残る唇の感触だけで、心臓が落ち着かなくなった。「初恋は、過去のことですか」 低い声だった。 糀は答えられなかった。 婚約は、まだ終わっていない。抱きしめてほしいと頼んでいい相手ではない。 そう思うのに、離れた布団へ戻る方がつらかった。「抱きしめてもらってもいいですか」 煌はしばらく動かなかった。「……本当に、いいんですか」「はい」 衣擦れの音がした。煌が自分の布団を出て、糀のそばへ来る。 起き上がった糀の背中へ腕が回った。もう片方の腕も腰へ回り、強く抱き寄せられる。 思っていたよりも、ずっと強

  • 『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています   第97話 あっくん?

    「……あります」  しばらくして、煌が答えた。 「澄乃の奥にあった部屋です。眠れないと言った私の布団へ、あなたが入ってきました」 「私が?」 「はい。眠るまで、こうして手を握ってくれた」  絡んだ指に、もう一度力がこもった。  煌の声を聞いているうちに、忘れていた部屋が浮かんできた。  古い箪笥。祖母が縫った布団。閉め切っても、厨房から味噌汁の匂いが入ってきた。  そこに、痩せた男の子がいた。  色白で、整った顔立ちをしていた。子どもの糀にも、きれいな男の子だと分かった。ただ、黒い目はいつも寂しそうだった。  いつも大人の後ろに隠れるように立ち、料理を出しても、なかなか箸を持たなかった。声をかけても、ほとんど返事をしない。  それでも糀は、その子が来ると嬉しかった。  店の引き戸が鳴るたび、厨房から顔を出した。今日は来たのかと祖母に何度も尋ね、来ない日は少しがっかりした。  話してくれなくても、隣に座った。糀が学校であったことを話していると、男の子は時々、口元をほんの少し上げた。  その顔を見られた日は嬉しくて、祖母に頼まれる前から食器を運んだ。  ある日も、男の子は出された料理に手をつけなかった。 「おばあちゃん、どうしたら食べてくれる?」  糀が尋ねると、祖母は男の子を見てから言った。 「糀が隣で、一緒に食べてみたら?」 「私が作ってもいい?」 「もちろん」  糀は祖母にご飯を少し分けてもらった。塩水で手を濡らし、熱いご飯を何度も持ち直しながら、小さな塩むすびを作った。  三角にはならなかった。丸くて、少し潰れていた。  男の子は、差し出した塩むすびを見ているだけだった。 「私も食べるから、一緒に食べよう」  糀は塩むすびを半分に割り、自分が先にかじった。それを見て、男の子も恐る恐る口へ運んだ。  一口食べたあと、男の子は残った塩むすびを見つめた。  糀は何も言わず、もう一口食べてくれるのを待った。  やがて、男の子が二口目をかじった。糀は息を止めたまま、その小さな口が動くのを見ていた。 「おいしい?」  男の子は小さく頷き、少しだけ笑った。  糀は嬉しくなって、すぐ祖母のところへ走った。 「おばあちゃん、全部食べたよ」  自分が食べたわけでもないのに、何度もそう言った。  祖母は笑って、「よ

  • 『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています   第96話 一緒に……寝てもらえませんか

     戸を閉めた途端、恥ずかしさが込み上げた。  少しだけ残念だったなんて、どうして本人へ言ってしまったのだろう。  煌がどんな顔をしていたのかも、怖くて確かめられなかった。  糀は熱くなった顔を冷まそうと、窓を少し開けた。山の夜気が入ってくる。遠くで水の流れる音がしていた。  明日は四時に起きなければならない。  浴衣へ着替え、布団に入ろうとした時だった。  カチ、と小さな音がした。  糀は振り返った。  誰もいない。窓の外にも、人影はなかった。  古い宿なのだから、木が鳴っただけかもしれない。  そう思って明かりを消すと、今度は天井の近くで、何かを引っかくような音がした。  店の棚の裏から見つかった機器を思い出した。  自分では気づかないまま、料理も会話も撮られていた。今も、見えない場所に何かが置かれていたら。  糀はもう一度明かりをつけた。  天井、照明、テレビの横。目に入るものを一つずつ確かめたが、何も見つからない。  また、カチ、と鳴った。  もう一人で調べる気にはなれなかった。  煌の部屋へ行こうとして、足が止まった。  煌には、まだ婚約者がいる。こんな時間に部屋を訪ね、また二人でいるところを撮られたら、今度は何を書かれるか分からない。  けれど、部屋のどこかから、また小さな音がした。  糀は部屋を出て、隣の戸を叩いた。 「はい」  すぐに戸が開いた。  煌は上着を脱ぎ、ネクタイも外していた。白いシャツの襟元が少し開き、いつもはきちんと整っている髪が少し乱れ、前髪がいつもより無造作に額へかかっている。  仕事中とは違う姿に、胸がどきりとした。こんな時なのに、目を逸らせなかった。 「どうしました」 「あの、部屋で、変な音がして」  声にすると、急に子どもじみて聞こえた。 「古い宿ですから、ただの物音だと思うんです。でも、店のことを思い出してしまって」  煌の顔から、先ほどまでの柔らかさが消えた。  糀の部屋へ入ると、照明や天井を確かめ、すぐに警備担当者を呼んだ。  十分ほど調べても、撮影機器も録音機器も見つからなかった。窓や戸にも、誰かが入った跡はない。  女将は申し訳なさそうに頭を下げた。 「夜になると、古い配管が鳴ることがあるんです。天井の音は、屋根に触れた木の枝かもしれません」  やは

  • 『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています   第95話 糀さんにとって、料理は愛情ですから

    「別の部屋なら、いいです」  思っていたより早く、返事が出た。  煌を意識しすぎているようで、恥ずかしくなったが、煌は少しだけ表情を緩めた。 「もちろんです」 「ありがとうございます」 「何より大事なことですから」  一時間後、糀は店の前に止まった車へ乗った。  着替えは一組だけ。汚れてもいい靴と、料理ノート。三回分の試作記録も鞄へ入れた。  服は動きやすければ何でもいいと思っていたのに、鏡の前で紺色と白のニットを二度も合わせ、結局、顔が明るく見えた白を選んだ。  黒い車が走り出す。後ろから、警備の車が一台ついてきた。 「出張なのに、警備まで必要なんですか」 「九条は、私たちより先に牧場へ連絡していました」  煌はそれ以上言わなかった。  玲奈の一言で客を失い、店を閉めた料理人もいる。  しかも、玲奈のそばにいた女性は、糀の店へ撮影と録音のできる機器を仕掛けていた。  勝負の日までに、あと何をされるのだろう。  そう考えると、少し怖くなった。  糀は、もう警備は必要ないとは言えなかった。  街の明かりが少なくなり、窓の外が暗くなっていく。 「牧場へ行った時のこと、本当に覚えていないんですか」 「景色は、ほとんど」  煌は窓の外を見たまま答えた。 「濡れた草の匂いと、牛舎の柵が冷たかったことだけは覚えています」 「祖母のことは?」  しばらく返事がなかった。 「食べられない子を、好き嫌いで片づけないで、と」  煌の声が低くなった。 「誰に言ったのかは覚えていません。祖父か、牧場の方か。ただ、何も食べられない私を、澄江さんがかばってくれたことだけは覚えています」  祖母らしい言葉だった。  料理を残す子を叱る前に、なぜ食べられないのかを考える人だった。 「おばあちゃんは、煌さんに食べてもらえる肉を探していたんでしょうか」  煌は驚いたように糀を見た。 「それは、考えたこともありませんでした」  煌はずっと、祖母の味を探していた。  けれど祖母も、幼い煌が食べられる味を探していたのかもしれない。  しばらく黙ってから、窓の外へ目を戻した。 「もし、そうなら、私は知りたい」  九条に勝つことは大事だ。  けれど今は、それだけのために牧場へ向かっている気がしなかった。  車が山道へ入る前に、休憩の

  • 『ママのご飯は古臭いからいらない』と家族に捨てられた発酵食インフルエンサー、なぜか偏食CEOに溺愛されています   第94話 宿泊で予約を取っても?

    「提案……ですか?」 「はい。勝負までは、二人で料理に集中しませんか」 「……二人で?」 すぐには頷けなかった。煌と二人で、と聞けば、まだ終わっていない婚約のことを思わずにはいられない。 けれど、ここ数日は料理を考えようとしても、美咲や玲奈のことが頭から離れなかった。料理ノートは開いたまま、何も書き足せていない。「証拠は私が守ります。料理の答えも、一緒に探します」 煌が、カウンターに置かれた料理ノートへ目を落とした。「あなたの料理を守りたいんです」 婚約を隠していたことは、まだ許せない。それでも今は、美咲や玲奈ではなく、食べてくれる人のことを考えたかった。「分かりました。そうします」 煌は力強く頷いた。「勝負の料理は、もう試作しましたか」 「三回です」 玲奈に祖母の紙を見せられたあと、糀は店を閉めてから、少量の和牛で条件を変えて試していた。「一回目は、若味噌六、古味噌四で四十八時間。二回目は古味噌を減らして、三回目は漬ける時間を短くしました」 「結果は?」 「一回目は味噌が強すぎて、肉の味が消えました。二回目は味がぼやけて、三回目は肉が硬いままでした」 「原因は?」 「配合と時間だけではないと思います。……肉かもしれません」 九条が持っているのは、祖母が失敗した途中の配合だ。棚の裏の機器で、店の中の会話や試作も盗まれたかもしれない。 けれど、同じ配合でも、肉の脂や水分が違えば、麹の働き方は変わる。 糀は祖母が残した仕入れ帳を開き、和牛の試作頁と同じ年の仕入れを追った。「あ……」 祖母も、最初の三回は、いつもの仕入れ先の肉を使っていた。だが、三つ目の失敗印のあと、山あいにある峯岸牧場へ仕入れ先を変えている。 その肉を使った次の頁には、失敗印がなかった。 代わりに、祖母の字で《もう少し》と書かれていた。 祖母がこの牧場を選んだ理由を知る必要があった。 今も同じ場所に牧場がある。糀はすぐに電話をかけた。「三浦澄江の孫です。祖母が昔、そちらから和牛を仕入れていたようで――」 「その話なら断る」 年配の男性は、糀が最後まで話す前に言った。「昨日も九条ホテルから電話が来た。今度は孫か。澄江さんの名前を出せば、誰にでも昔のことを話すと思うな」 九条は、もうここにも先回りしている。「本当に孫です。店も私が受け継いで

บทอื่นๆ
สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status